はじめての森田療法(2016)
神経衰弱(現在の神経症)を患った経験を持つ精神科医、森田正馬(1874-1938)により生み出された日本独自の精神療法「森田療法」について書かれた本。
精神疾患となった原因を解明し、アプローチしていく西欧の治療法と違い、森田療法は目の前のことに集中し、病や病を患った自分を「あるがまま」に受け入れることに重点を置いた治療法である。
気付いた人もいるかと思うが仏教がベース。日本人にとって宗教は生活になじんでいるものなので、改めて名前を出されると拒否感があるだろう。
しかし、最近は人生のアドバイザーとしてブッダを召喚している本が書店に並んでいるし、ちょこちょこ聞くマインドフルネスも元を正せば仏教にある。そうでなくとも仏教が生活に溶け込んでいる日本人にとって仏教をベースとした森田療法は受け入れやすく、性にあっていると思う(誰目線?)。
森田療法を知るキーワードは以下の通り。
- 「できること」と「できないこと」
- 自然に生きる
- 内的自然
- 心の流動
- 「理想の自己」と「現実の自己」
- とらわれ
- 「かくあるべし」と思想の矛盾
- はからい
- 生の欲望と死の恐怖
- 感情と感情の法則
- 気分本位と事実本位
- あるがまま
引用:はじめての森田療法
森田がこの療法を産みだしたきっかけは自身が患っていた神経衰弱の克服体験にある。学生時代、仕送り問題で追い詰められた結果、薬などを一切止め、勉強に集中した。過去や未来にとらわれることなく現状に集中することで神経衰弱による「とらわれ」から抜け出せたのである。関係ないが坂口安吾も同様の方法で精神疾患を克服していた。一般人には真似できない、ものすごい力業である。
森田が当時行ったのは入院を基本としていたが、現在は現代人に合わせた治療法に変化し、通院でも治療可能である。一時、いや今でも西欧療法に圧され、森田療法を行う病院や医師は少ないようだ。個人的に治療法が多い方が良いと思うのだが。
最後に心に残った一文。
そして、苦悩からの回復とは、悩む以前の状態に戻ることではありません。それは生き方が変わることであり、人生の行き詰まりを乗り越えることで成長していくことでもあるのです。
引用:はじめての森田療法