嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

現代訳 枕草子(2014)

 からりと晴れた夏空のような、爽やかな文章。気取りのない内容は千年前に書かれた思えないほど瑞々しく、鮮やかだ。複雑で面倒くさい人間関係、相手を思えば思うほどすれ違う男女、くるくると姿を変える自然。人間、自然、どれも今と変わらぬことに驚きながら、人の成長のなさに呆れてしまう。

 著者清少納言は頭がよく、気も強い、個人的にどうにも鼻持ちならない女だ。思い出したかのように挿入される自画自賛、貧乏人や容姿のよくないものへのあからさますぎる差別心は時代を考慮してもやりすぎだと思う。しかし、それさえもページをめくれば、さらりと忘れてしまえるのは清少納言の眼差しが冷淡だからだろう。自分、他人、動物に至るまで事実をあるがままに書く。そういった文章は良くも悪くも後を引かない。

 平安貴族はゆるゆる恋をして、ぐずぐず恋に悩んでいる、のほほんとしたイメージだったが清少納言の、心の移り変わりの速さは「のほほん」ではない。読んでいるこちらが戸惑うほど今にしか興味を持たず、みなで可愛がっていた犬の死も差別心も慈悲もさっと手放し、次々目と心を転じていく。

 現代訳をつとめたのは小説家、大庭みな子。原文を損なわず、なおかつ読みやすい訳は、枕草子初心者、古典が苦手な私にはとてもありがたかった。

現代訳 枕草子

著者:大庭みな子

発行:2014

本体価格:980円+税