嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

チャップリン自伝 栄光と波瀾の日々(2018)

初出:前ブログ

 今作はチャップリンが75歳のときに書き上げた自伝の下巻にあたる。上巻は幼少期からアメリカに渡るまでを描いたドラマティックな内容であった。下巻は一気にスターへ登り詰める様、映画の裏話、ロマンティックな恋や結婚が繰り広げられるのだと胸を膨らませた。そんな私を待っていたのはチャップリンとスター達の華麗なる交流エピソードだった。

 ページをめくってもめくっても著名人にどんな歓迎を受け、どんな会話をしたか記され、私を含む読者が読みたいであろう部分(映画の苦労話など)はほとんど出てこない。

 例えば、ナチスドイツを皮肉った映画「独裁者(1940年)」。500日以上かけて撮影され、過激な妨害を始め、様々な苦労があったにもかかわらず、それらが一切書かれていない。知りたいのはそこなのに!

 成り上がりのチャップリンが「俺、こんなすげースターと友達なんだぜ」とはしゃぐのは分かるが、彼はチャップリンである。人の心を読み、くすぐり、笑わせることの出来る稀有な才能を持ったコメディアンだ。そんな彼が読者の興味が分からないはずがない。何故、意図的に読者を無視したのか。

 これについては解説に理由が記されている。まず、チャップリンが生涯現役であったこと、マジックのように種明かしをしてしまうと映画がつまらなくなると考えていたからの2つが原因とされている。理由が判明しても不満は不満である。

 痒い所に手が届かない気持ち悪さを感じながらも最後まで読み切れたのは来日エピソードと気まぐれに差し込まれる映画論、そして終始漂う孤独感のおかげだった。富、名誉、全てを得たとて、チャップリンは常に孤独を抱えていたのだ。

 世界的喜劇王が求めていたのものは何だったのか。深く愛したアメリカを追放され、一生涯治らない傷を負い、遠いスイスでチャップリンが得たものとは。

 最後の3ページは涙なしでは読めないほど、美しい。

作品情報

チャップリン自伝 栄光と波瀾の日々」

著者:チャールズ・チャップリン

訳:中里京子

発行:2018年

本体価格:990円+税