嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

ひらめきの導火線 トヨタとノーベル賞(2008)

日本人には創造性がない。

日本人には個性がない。

日本人には独創性がない。

 本編で当たり前のように語られる日本人の欠点。著者の茂木さんは実際、外国人にも指摘され、自身でもそう感じ、世界の常識だと思い込んでいるようだった。私は日本から出たことがないけれども、こんな事夢にも思わなかったからとても引っかかった。母国を馬鹿された怒りではなく、茂木さんのネガティブさに引っかかったのだ。私の知る限り、茂木さんは母国を叩いてお金を稼ぐような人でも感情的な人でもない。

 他国や他人を馬鹿にする人間は人種、性別、年齢に限らず、無知からくる優越感、自分の不幸せを紛らわしたいがための八つ当たりが多いように思う。そもそも国も人も短所と長所があり、総合的に見れば、どれもどんぐりの背比べだ。何を言われようが気にしなきゃいいのに、そう思うのに茂木さんはどこまでもネガティブの海に沈んでいく。

 文章、行間からにじみ出る西洋コンプレックス。本編で登場する日本をけなす外国人とその言葉を素直に受け取りショックを受ける日本人。本書を読み進めながら、ふと、この人は自分でも気付かないくらい大きな孤独を抱えているんじゃないか?と思った。

 茂木さんは11歳の時読んだ「赤毛のアン」の登場人物や生活の背景に貫かれる人間らしさに敗北感を覚えたという。その後、語学研修のため訪れたカナダでも広々とした家や庭などを見て、同じような敗北感を味わっている。

 この体験はどちらも自由と個人の尊重が共通しているように思う。茂木さんは個性的な考えの人だから、幼少期から「和を以て貴しとなす日本的な集団生活」に馴染めなかったのかもしれない。その孤独や寂しさが自分を受け入れてくれなかった日本への怒り、西洋コンプレックスに繋がったのではないだろうか。

 茂木さんが執着する日本の三つの欠点、独創性と個性、創造性の有無は個人差の問題であり、国でくくれるものではないはずだ。そんな当たり前に気付かないほど、茂木さんの孤独は強かったのかもしれない。脳科学の先生でさえ、自分の考えの矛盾に気付かないんだなあと親近感が湧いた。

以下、メモ

 脳科学者は神経細胞が活動することを発火する表す。仏教は煩悩を炎と例える。この共通点に仏教好きは興奮した。

ひらめきの導火線 トヨタノーベル賞

著者:茂木健一郎

発行:2008

本体価格:680円+税