嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

貧困を救うのは、社会保障改革か、ベーシック・インカムか(2009)

 自分は失われた30年を詳しく知らなかったが、本書を読み、過去30年に政府が取った政策は見事なまでの失敗であり、日本が貧困に陥るのは必然であったのだなと絶望した。人口減少、自殺率、社会保障の増加など挙げ始めればキリがないが、日本は淡々と崩壊の道を進んでいる。

 先日イーロンマスクが日本滅亡を危惧していた。だからといって政府や国民が動き出す様子はない。日本人は自然だけでなく全てに対し「鎮まり給え」精神であるので、個々が死の危機にさらされるまで動きはしないだろう。そうなってからでは遅いのだが、行動の遅さは日本のお家芸である。

 日本の社会保障の欠陥の中でも特に驚いたのは生活保護だ。最後のセーフティーネットであるにもかかわらず、理不尽な理由で門前払いを受けることがあるという。

「家族親戚を頼れ」

「元配偶者に食べさせてもらえ」

 核家族、人との繋がりが薄れつつある現代社会で「家族親戚を頼れ」は時代錯誤も甚だしい。担当者は家族親戚の結びつきが強い家の出なのだろうか?元配偶者は他人なのだが、他人を頼る社会制度とは一体…?

 また生活保護は恥ずかしいと感じる人が多く、申請条件をクリアしていても実際に受給するのは5人に1人程度だという。(よく取り上げられる不正受給は全体の0.4パーセントにすぎない)。

 自殺の原因の約15パーセントは経済問題、約49パーセントが健康問題である。どちらも仕事、生活に直結している。下世話な話、お金さえあれば救えた命ではないのか?絶賛人口減少中の日本にとって、命は最優先されるべきものではないのか?社会保障がきちんと機能しているのか疑問が残る。

 著者は日本は働ける人、働けない人の分別を間違い続けてきた、分別を間違えているため、こぼれ落ちる人が発生する(貧困の罠)と指摘する。社会保障を「条件付きの生存権」、ベーシックインカムを「無条件の生存権」とし、貧困の罠を回避するのに適していると語る。

 個人的に面白いなと感じたのは日本では既に富裕層に対し、ベーシックインカムを払ってきたという主張だ。元は7、80パーセントあった所得税は今40パーセントほどになっている。つまり本来は払うべきものを免除している、それがベーシックインカムにあたるのだ、と。仕事中に居眠りしている議員に対しても同様なのでは?と個人的意見も付け加えておく。

 私自身、ベーシックインカム導入に前向きである。もちろん、ベーシックインカムが万能であるとは思わないし、財源など解決すべき問題は多々ある。しかし現状、欠陥の多い社会保障に代わる案はベーシックインカム以外思いつかない。ネット上でもこれといった代案はなかった。あれば是非教えてほしい。

 最後に。本編は2人の経済学者の対談で進み、日本経済の今までの歩み、現状、諸外国の社会保障ベーシックインカムの問題点などが多角的に語られている。

参考

警察庁発表 自殺者数の統計 | ティーペック株式会社

生活保護Q&A - 日本弁護士連合会