嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

「哲学する!」練習帳 そのとき、あなたならどうしますか?(2002)

初出:前ブログ

著者・永淵 閑

 内容は著者の経験を元に制作された、10個の問題に対し、自分なりの答えを導き出すというもの。

「哲学」と聞くと難しいイメージがあるが、この本は「自分ならどうするだろう?」とハードルが低く設定されているため、問題自体に躓くことはない。

 言葉は優しいが「人間が生きるとはどういうことか?」を5年間、考え抜いた著者が提示する問題はどれも簡単に答えが出せないものばかり。

 一つ、問題をあげてみよう。

 インドを貧乏旅行中、7歳の乞食の女の子が「お金を恵んでほしい」と近づいてきた。冗談で同じ言葉を繰り返すと、女の子は持っていた小銭の半分を差し出してきた。さて、あなたはどんな行動をとるだろうか?

 私なら一旦小銭を受け取り、少し多く返すだろう。恵まれない彼女を助けたい気持ちもあるが、冗談を真面目に返された気恥ずかしさ、自分の軽薄さを軽減させたい下心からだ。我ながら自己中心的な考えだと思う。

 本編には問題だけでなく、国、性別、年、多様な人々の考えがいくつか掲載されている。私と同じ一旦小銭を受け取り、多く返す人もあれば、ほんの少し受け取る、(個人的に信じられないが)全て受け取る人もいる。

 この問題に限ったことではないが考えれば考えるほど、思案の迷路に迷い込む。

 何故なら物事は状況、関係性、出身や文化など、様々な要因が複雑に絡み合っているからだ。さらにそこに自分の感情や倫理観が追加される。

 初めは正解のない問題を解くのが苦痛だが、読み終える頃には答えがないゆえに楽しいと感じるようになっていた。

 自分なりの答えを出した後、他の方の考えを読むと共感したり、納得したり、時には反感を覚えたり、他者がいることで「私って、こういうことに腹が立つんだ!」「共感するんだ!」と新しい自分を発見する。

 どんな問題も見る角度を変えれば、がらりと形が変わり、正しいと思っていた考えに自信がなくなってくる。当然、その逆もある。

 物事を深く考え、自問自答すること。

 短気で感情的になりがちな、現代人に読んでほしい一冊だ。