嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

文豪たちの友情(2018)

初出:前ブログ

作品情報

著者:石井千湖

2018年発売。本体価格:1500円税抜き

本の内容を一言で

 今もなお愛される名作を書き残した、文豪達の意外な交友関係やエピソードをまとめた本。

感想

 室生犀星坂口安吾太宰治など「名前や本の内容は知っているけれど、どんな人かは知らない…。」という人は多いかもしれない。友人関係はなおさら。実際私がそうだった。

 物理的な意味合いや時代背景、作品傾向から文豪と現在を生きる私達の距離は遠い。独特な言い回し、やたら複雑な漢字、何が言いたいのか、いまいち分からない内容。肖像写真も酷く真面目か、陰鬱で不機嫌そうなものばかり。人にもよるが、大抵はとっつきにくい雰囲気を漂わせている。

 一見、近寄りがたい文豪も一人の人間だ。どんなに立派な作品を生み出していても嫉妬深かったり、しょうもないことで激怒したり、破天荒な言動を繰り返したり…。肖像写真や作品からは想像もつかないような、エピソードの数々は思わず笑ってしまうものばかりだ。

 友達が欲しいのに我が強すぎるあまり、敬遠される中原中也、得意のサービス精神で嘘を書いても許されてしまう太宰治、恋愛に憧れていながら、奥手な田山花袋は童貞を誇る。一部を紹介しただけでも面白さが分かってもらえると思う。

 普通なら、面倒くさくて厄介な相手だと分かった瞬間、距離を置くものだが、類は友を呼ぶ。いや、さすが文豪というべきか。酷い面倒をかけられても最後まで見捨てることはない。もちろん、度が過ぎて仲たがいしてしまうこともあるが。

 才能があるからこそ、才を見抜き、魅了され、過失も受け入れる。これを不幸と見るか、幸福と見るかは本人が決めることだろう。

 この本を読んだ後、無性に彼らの本が読みたくなった。何気なく読んでいた一文に新しい発見が、描写や物語に下らない喧嘩や友情が隠されているかもしれない。「立派だ!」と思っていた一文がただの虚勢かもしれない。

 真面目ぶって難解な文を見つけたら「あの時、あんなこと言ってたよね?」と上げ足を取ってやるのもいい。

「偉人」「文豪」の近寄りがたい仮面の下には、非常識で人情味に溢れ、人間臭すぎる素顔が隠れている。