ヒトの意識が生まれるとき(2001)
(⑅:3っ )∋
ヒトの意識が生まれるとき
著者:大坪治彦
発行:2001
本体価格:1500円+税
禅の坊さんもぼやく。そして学ぶ。(2017)
ご老人に席を譲る人を見て、世の中捨てたもんじゃないとほっこりしている自分は席を譲る気は少しもなかった、渋滞にハマるとイライラする、つい調子に乗って、それを注意されると腹が立つ、修行に本気で打ち込むようになった理由は失恋…。
崇高な禅僧のイメージをひっくり返す、人間味あふれすぎる禅僧のエッセイ。しかも著者はバイクが大好きで若い頃は文字通りブイブイ言わせていたらしく、もう、なんだか色んな意味で気が抜ける。だからこそ親近感が湧く。
それでも一般人の自分と違う点は腹が立っても頭が冷えたら客観的に物事を観察し、時に反省しながら学んでいく姿勢だ。
「禅は取捨に迷わず、是非にとらわれず、いいことも悪いことも元々は同体であると覚悟して生きていくこと」。
穏やかに感情に振り回されず、生きていきたいと切に願っている煩悩まみれの私には難易度が高い。人間は、少なくとも私は希望、理想を求め、もがかずにはいられないし、怒りも悩み何もかも素直に受け入れた上で生きていく覚悟はなかなか決まらない。
死にはせぬどこにも行かぬ此処に居る尋ねはするな物は言わぬぞ
著者の母へ禅僧の祖父が送った、一休禅師の言葉。ああひとりじゃないんだなあと安心して、何故か泣けてしまった。
禅の坊さんもぼやく。そして学ぶ。
発行:2017
本体価格:1200円+税
仏像と仏教(2014)
千手観音さまの心が、あなたに宿る。仏に祈ると、祈った仏になることができる。仏に救われると、人を救うことのできる仏になることができる。千手観音さまだけではない、お釈迦さまも、阿弥陀さまも、お地蔵さまも同じである。祈った仏の仏心が宿るのである。
引用:仏像と仏教 知っておきたい仏像とご利益と仏教の教え p2
仏も人間も平等な、持ちつ持たれつの関係に心あらわれると共に、どう考えても弥勒菩薩の救済が57億7千万年後なのは長すぎる。弥勒菩薩が登場するまでの間、如来や菩薩、明王達が衆生を救うため奮闘してくださるが、そう考えると弥勒菩薩の救済の意味は…となってしまう。
諸行無常、一切皆苦、諸法無我、涅槃寂静を説いたブッダの基本スタイルは時代と時を経て、徐々に変化し、いつからか仏像が作られ、様々なご利益も付属された。煩悩を焼き払い、愛を成就させ、果てには害虫に刺されない加護を…。
人間の自由すぎる発想に驚き、呆れながら、同時に異形の仏像はあくまで外国生まれなのが興味深かった(そもそも仏教は外国産だが)。日本は昔、当時最先端の中国から様々なものを輸入した。その中で唯一、輸入しなかったのは宦官や纏足など体を異形にする習慣だったと本で読んだ。
思い返してみると古事記でもイザナミとイザナギは長子「ひるこ」を捨ててしまったし、神々も異形な姿はいなかったように思う。異形は大抵、鬼や土蜘蛛など、まつろわぬ民として敵視された。日本人は昔から異形が苦手だったのかと書こうとしたが、古来より日本は多民族であるし、大和朝廷は異形を嫌ったと書けばいいのか…、知識がないからまとまらん。
本編には仏像や宗派だけでなく、地獄と極楽の記述もあった。でも、どうしても私は極楽に行きたいと思えなかった。願えば衣服も食事も目の前に現れるらしいが死んでまで食事は取りたくないし、 夜は暗い場所で眠りたい自分としては常に光に包まれた極楽は拷問のように感じる(アイマスクは苦手)。死がない設定も理解できないし、これは私の信仰うんぬんではなく、極楽考案者の落ち度だと思う。
対して地獄は凄惨ではあるものの、考案者の狂喜乱舞が満ちていてテーマパークのような楽しさがある。設定を見る限り、人間の99パーセントは地獄に落ちる。地獄生活は気が遠くなるほど長いがいつか出られるし、お地蔵さんという救済システムもあったりして、意外に落ちても大丈夫なんじゃないかと思っている。でも取り敢えず、南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏…。
仏像と仏教 知っておきたい仏像とご利益と仏教の教え
監修:村越英裕
発行:2014
本体価格:920円+税
もし乙女ゲの攻略対象がギャルゲーマスターだったら
主人公(プレイヤー)が攻略対象を攻略するんじゃねえ、攻略対象が主人公(プレイヤー)を攻略するんだ。
どっかで聞いたような台詞だけども、これがこのゲームを遊んで浮かんだ言葉だった。
主人公は新生活に心躍らせる高校一年生。校内を歩いていた彼女にぶつかってきたのは三年生の先輩。数え切れないほどのギャルゲーを攻略し、自らをギャルゲーマスターと呼ぶ「伽琉径益太(ぎゃるげいますた)」。ギャルゲーマスター=恋愛マスターだと勘違いしている彼はいきなり「お前を一年で攻略してみせる」と宣言する。
見るもの全てをギャルゲーで解釈し、廊下での出会い、相合い傘、文化祭、バレンタイン、ベタすぎる恋愛イベントを強引に引き起こし、果てには恋愛バロメーターの説明、周りをモブ、話が通じなければバグ扱いするなど、最初から最後まで暴走しっぱなしの益太が愛おしくてしょうがなかった。私に限らず、度が過ぎた奇人を無条件に愛してしまうのは人のバグ(性)のように思う。
主人公がドン引きするのもお構いなしに連発される奇行と迷言。人間の悩みの全て人間関係である。そんな言葉があるように益太の言動は人間関係に悩みに悩んだ末の結果だった。ギャルゲーから解決法を得ようとしたばかりに周りから誤解、変人呼ばわりされ、孤独を深めた。常に自信満々の益太は自分を「根暗で頭も悪いオタク」で、家族とも上手くいっておらず「ギャルゲーにしか居場所がない」と主人公に漏らす。
思春期特有の迷走だと言ってしまうのは簡単だが、孤独や思い通りにいかない現実、自分の情けなさを抱え、苦しみ、もがく益太。周りにからかわれ、疎外されても人を求める姿は他人事に思えなかった。そんな中、先入観なく益太を見、付き合った主人公は本当に素晴らしいと思う。良かったね益太!
もし乙女ゲの攻略対象がギャルゲーマスターだったら
ジャンル:乙女ゲーム
推奨年齢:12歳以上
制作:ゆうれい
むこうがわの礼節
「ちょっと、変なことがあったのよね」
山登りが趣味の萌佳は月に1度トレーニングをかね、近場の山を登る。帰りも同じ道を通るのは面白くないと旧道を歩くも、そこは獣道。道を見失い、不安になりながらも進んでいくと、山間の集落に出た。安堵に胸をなでおろしながらバス停までの道を聞こうと、近くを通りかかったおばあさんに声をかける。しかしおばあさんは無言のまま、半ば逃げるように彼女の前から去ってしまう。
かつて当たり前に存在していた、ひとならざるものが暮らす「むこうがわ」の世界。我々人類は文明、科学の進歩と引き換えに「むこうがわ」への恐怖や敬意を失いつつある。物事は多面的だから肯定も否定も控えるが、今もなお「むこうがわ」の存在をなんとなく信じている人間として危機感を覚えている。
主人公萌佳は「むこうがわ」と接したことも感じたこともない都会っ子である。「むこうがわ」の存在はおろかルールもタブーも知らない。それが物語の発端、おばあさんの不可解な行動への疑問につながる。彼女は幸いおばあさんに不審感を抱くだけで無事家に戻れた。しかし「むこうがわ」に迷い込んでいたら、きっと知らぬ間にタブーを犯し、二度と戻れなかっただろう。
「むこうがわ」なんて昔の人の妄想で、意識しなければ存在しない、馬鹿馬鹿しいものだ。見えるものだけが現実、物質だけの世界。それこそ、思い上がった妄想で馬鹿馬鹿しいと感じるのは何故だろう。
むこうがわの礼節
ジャンル:ノベル
推奨年齢:全年齢
制作:スタジオ・おま~じゅ