嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

禅の坊さんもぼやく。そして学ぶ。(2017)

 ご老人に席を譲る人を見て、世の中捨てたもんじゃないとほっこりしている自分は席を譲る気は少しもなかった、渋滞にハマるとイライラする、つい調子に乗って、それを注意されると腹が立つ、修行に本気で打ち込むようになった理由は失恋…。

 崇高な禅僧のイメージをひっくり返す、人間味あふれすぎる禅僧のエッセイ。しかも著者はバイクが大好きで若い頃は文字通りブイブイ言わせていたらしく、もう、なんだか色んな意味で気が抜ける。だからこそ親近感が湧く。

 それでも一般人の自分と違う点は腹が立っても頭が冷えたら客観的に物事を観察し、時に反省しながら学んでいく姿勢だ。

「禅は取捨に迷わず、是非にとらわれず、いいことも悪いことも元々は同体であると覚悟して生きていくこと」。

 穏やかに感情に振り回されず、生きていきたいと切に願っている煩悩まみれの私には難易度が高い。人間は、少なくとも私は希望、理想を求め、もがかずにはいられないし、怒りも悩み何もかも素直に受け入れた上で生きていく覚悟はなかなか決まらない。

死にはせぬどこにも行かぬ此処に居る尋ねはするな物は言わぬぞ

 著者の母へ禅僧の祖父が送った、一休禅師の言葉。ああひとりじゃないんだなあと安心して、何故か泣けてしまった。

禅の坊さんもぼやく。そして学ぶ。

著者:長井宗直(臨済宗建長寺派岩戸山 満願寺住職)

発行:2017

本体価格:1200円+税