嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

文豪たちの口説き本(2020)

初出:前ブログ

作品情報

2020年発行

著者:彩図社文芸部

本体価格1200円(税抜き)

著者情報

 株式会社彩図社、1991年設立。東京都豊島区にある出版社。

 実録レポートや歴史、雑学など「読者の好奇心を本に」をテーマに幅広いジャンルを刊行している。

公式サイト

www.saiz.co.jp

一流の文豪なら口説き文句も一流?

 あなたは文豪にどんなイメージがあるだろうか?

 気難しい、近寄りがたい、生への執着が薄い…。100年以上経っても多くの人の心を揺さぶる作品を生み出した文豪達。

 今は遠い昔の人だが、彼らも私達と同じ人間だ。恋をすれば、嫉妬もするし、変な性癖だってある。

 本書は9人の文豪のラブレターをまとめた本である。相手は恋人、妻など、様々で、どれもこれも思わず「あまーーい!!」と叫びたくなるほど、甘ったるい。

とにかく甘い、太宰治

 文豪界一の人たらしといえば、太宰治だ。特に女性に対しては、読んでいるこちらが恥ずかしくなるような口説き文句をさらりと口にする。

サッチャン、ご免ね、きみをもらいますよ

(引用:「文豪たちの口説き本」太宰治の章『山崎富栄への口説き文句』)

 これは太宰と心中した山崎富栄に向けた言葉だ。まるで乙女ゲームに出てくる台詞である。好きなんだから黙って攫ってくれれば良いものを、あえてごめんねと謝ってくるところが憎い。

あと二、三年。一緒に死のうね

(引用:「文豪たちの口説き本」太宰治の章『山崎富栄への口説き文句』)

 太宰の口説き文句はどれもワクワクする。攫ってみたり、一緒に死のうと言ってくれたり、本音かどうかはともかく、太宰は非常にサービス精神旺盛な人だった。

僕の晩年は、君に逢えて幸せだったよ

(引用:「文豪たちの口説き本」太宰治の章『山崎富栄への口説き文句』)

  この台詞で落ちない人がいるなら是非会ってみたい。

クズ界の一等星、石川啄木

 金が入れば女や酒に、献身的に妻にかけるのは労りではなく、暴力。知れば知るほど失望する文豪、石川啄木

 彼は新詩社で収入を得るため、短歌の添削指導を行っていた。添削依頼をした大分在住の菅原芳子とのやり取りで、啄木は「写真を送れ」と何度も催促している。※短歌の添削に顔写真は必要関係ありません。

 ようやく送られてきた写真に対し、啄木は日記でこう書いている。

 築紫から手紙と写真。目のつり上がった口の大きめな、美しくはない人だ。

(引用:「文豪たちの口説き本」石川啄木の章『芳子の写真を受け取った日の日記』))

 腐り外道、ここに極まれり。

「愛しき芳子さん」と熱を上げていた啄木は彼女が美しくないと知るや、あからさまに冷淡な態度をとるようになる。クズもここまでくるといっそ清々しい。

 ちなみにこの後、芳子の短歌仲間である24歳の美しい独身女性と手紙のやり取りをするようになる。啄木はさっそく口説にかかるが、彼女は実は男性だった。

 本書には男性だと知らずに口説く、啄木の手紙も収録されている。啄木ざまあ!と大いに笑ってやろう。

26個下の女性に奉仕する、谷崎潤一郎

痴人の愛」「細雪」で知られる谷崎潤一郎は生涯で3回結婚している。本書に収録されている手紙は主に3番目の妻、松子にあてたものだ。2人が知り合ったのは松子24、谷崎40のとき。

 26個下の松子を谷崎は崇拝し、徹底的な奉仕の精神で愛した。手紙でも自らを「侍女」、松子を「御主人様」と呼んでいる。

≪略≫自分を主人の娘と思えとの御言葉でございましたが、その仰せがなくともともより私はそう思って居りました。

(引用:「文豪たちの口説き本」谷崎潤一郎の章『谷崎潤一郎から根津松子への手紙』)

  松子を御主人様と呼び、前世から主従関係だったかもしれないとうっとりし、用済みだと暇を出されるのを恐れる谷崎は、魅力的なナオミの肉体に魅入られ、振り回される「痴人の愛」の主人公そのもの。

 字面だけ読むと若い女性にご奉仕する変態老人だが、文豪のなせる技なのか、爽やかで上等なお遊びに思えてくるから不思議だ。

3人以外の口説き文句も

 紹介した3人以外にも中原中也芥川龍之介萩原朔太郎斎藤茂吉梶井基次郎中島敦国木田独歩口説き文句が収録されている。

 文豪好きや文豪に口説かれてみたい方、ラブレターの書き方が分からない方も是非手に取ってみてほしい。