嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

タナカくん

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 正真正銘、夢見る乙女「夢見チャオ」と片思い中のタナカくんの不思議な不思議な物語。

 イラスト、設定からしバカゲーかと思いきや、しっかりとした伏線と回収、どんでん返しもあり、色んな意味で裏切られた。先入観を利用するゲームを作った作り手さんは、とても頭がいいのだろう。

 本当に伏線が緻密に張られているので、何を書いてもネタバレになりそうで怖い。とりあえず、今日はここまで。

監禁しちゃった☆

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 気がつくと美女に監禁されていた主人公。ナミカと名乗る謎の美女から主人公は逃げられるのか。

 監禁もののゲーム(?)をやるといつも思うのだけど、監禁する側の、自分の都合に他人を巻き込もうとする、その自己中さと行動力に驚かされる。これは私が精神に異常を期しているから書くけど、精神に問題がある人は自分の世界観が強い気がする。だから現実を捻じ曲げて、勘違いしてしまう。

 きっかけは明かされていないがナミカは主人公に恋心を抱いた。彼に近づくため、主人公が務めている会社の面接を受けるも「就職経験がない」ため失敗。それでも諦めきれず、掃除のアルバイトとして就職することに成功した。容姿だけで判断するなら、ナミカは成人女性だ。そんな彼女が「就職経験がない」ということは、というか、平気で倫理や法を破るところからして、精神に問題があり、社会不適合者なのは明らかだ。

 人間は集団生活を基盤にしている動物の一種で、その枠から外れるのは自然界において死を意味している。ナミカが主人公に恋心を抱いた理由は自分と違い、社会に適応し、(ナミカよりは)上手く生活していたからじゃないか?もっと言うならば、主人公が自分を「まともな世界」に救い出してくれる救世主に見えたんじゃないか?

 と、好き勝手書いちゃったけど、どういう理由であれ、監禁は良くないし、同情はできん。でも人によっては美女に監禁されるならいいという考えの人もいるのだろう。まあ考えない、人に世話をしてもらうって楽だもんね。しかも相手は美女だし(?)。

殺人鬼はにこやかに笑う

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 主人公は交番のおまわりさん。近頃、若い女性ばかりを狙う通り魔が発生し、頭を悩ませていた。驚くべきことに犯人は被害者と同じく若い女性だと言う。噂では女子大生が犯人だとされているが…。

 事件現場である公園へパトロールに向かった主人公。そこには高校生くらいの男の子、小学生、おばあさんがいた。彼らから話を聞き、主人公は事件の真相に近づいていく。

 物語を読むだけで、推理パートはない。いわゆる一本道ノベル。プレイ時間は五分ちょい。

 ゲーム勘が悪いで有名なのに一発で犯人を当てられた。推理も概ね正解。奇跡だ。

 犯人の動機は度重なる不幸と思考の歪みだった。自分を隠しながら本当の自分を知ってほしい矛盾と身勝手さ。それでも犯人に親近感を覚えたのは、私も犯人と同様の矛盾と身勝手さを抱えているからだろう。

ぼくのえにっき

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 子供が書いたと思われる夏休みの日記。

 クリックするだけ、なおかつ一分ちょいで終わるので、気軽に遊べる。が、内容は意味が分かると怖い系で決して気軽に楽しめるものではない。

 このゲームの真の面白さは二周目だと思う。もう一日目から怖い。

ボクには世界がこう見えていた 統合失調症闘病記(2011)

 解説(精神科医岩波明)を読む限り、統合失調症は知的障害のないものと考えられているが、実際は思考障害など、知的能力の衰えがみられるという。思考力や判断力などが衰えてしまい、患者達は複雑な心理現象をまとめて表現する能力を失っている事が多い。つまり統合失調症患者は己の苦しみを外部に伝えることができない。

 しかし本書は鮮明に幻覚、幻聴の恐怖と苦しみ、心理描写が見事にまとめあげられている。この点について岩波氏は著者の病状が「『統合失調症』ではなく、『統合感情障害』であり、統合失調症で通常みられる思考や言語の障害が出現していないため」と述べている。

 幼少期からアニメに親しみ、早稲田大学に入学、その後、アニメ制作会社に就職した著者の人生は一見、順風満帆に見える。しかし就職後、二年数カ月後に発症。入退院を繰り返し、二〇一一年時点ではグループホームに暮らし、精神科のデイケアに通う日々だという。

 著者を苦しめた幻覚、幻聴は想像を絶するものばかりだ。ありとあらゆるものが自分への暗号だと思い込む、自分の精神状態と自然災害との連動、盗聴、盗撮の被害妄想、道ですれ違う人々から殺意を向けられていると困り果てる…。

 著者の苦しみは十二分分かっているつもりだが、読み手の私は幻覚、妄想の種類の豊富さ、人間の想像力の豊かさに驚いた。中でも印象に残っているのは以下の場面である。

何を思ったか、近くに止まっていたそば屋のバイクのおかもちを開け、中から数本の割り箸を取り出し、その意味するものを必死で考えた。これも何かの暗号のはずだった。しかし、意味はわからなかった。今、手に持っているプラパズルの全組み合わせを完成させれば、この地獄から逃げられるかもしれないと思ったが、それは不可能で、絶望感を高めるだけだった。

ボクは心底疲れ、従来の真ん中で大声で叫んだ。

「おかあさーん」

と叫べばよかったのかもしれない。しかし僕は、僕に課せられたこの試験は、CIAか内閣調査部の仕業だと思い、

「田中(角栄)さーん、竹下(登)さーん、勘弁してくださいよー」

と叫んでしまったのだ。

引用:ボクには世界がこう見えていた 統合失調症闘病記 p117、118

 不謹慎極まりないのは重々承知しているが、私は大いに笑ってしまった。これは私の性格の悪さや共感能力の低さだけが原因ではない。数カ月前から身内に著者と同様の症状が現れ、良くも悪くも発狂中の人間に慣れてしまっているのだ。本書は私にとって「統合失調症闘病記」兼「幻覚、幻聴あるある本」であり、色んな意味で興味深く、おもろいんである。

 繊細な問題なので詳しくは書かないが、身内と著者の一致していた症状は幻聴、盗聴、頭の中が外に漏れているなどだった。特に興味深かったのは、自分を苦しめる幻聴、幻覚を確かめる行為を躊躇する場面だ。著者は家で床に入った時、部屋の外に人の気配(階段を上り下りする音だったか?)を感じた。普通なら扉を開け、確かめるが著者はどういう訳か、確かめてはいけないと目を閉じてしまった。身内も幻聴か否かを確かめるため録音するよう勧めると、何故かためらって録音ボタンを押さなかった。恐らく彼らは本能的に自分の見聞きしているものが現実ではないと分かっているのかもしれない。

 本書は当然、著者視点で書かれているが、個人的に家族や友人など、第三者視点でも読んでみたいと思った。著者の考える現実とどれほどのズレがあるのか、発狂する人間に対する感情の揺らぎも是非、読みたい。

ボクには世界がこう見えていた 統合失調症闘病記

著者:小林和彦

発行:2011

本体価格:590円+税

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる(2020)

 忘れ去られた天才科学者、ロバート・ヒースは脳を電気で刺激する「脳深部刺激療法」で精神病などの治療を行っていた。しかし、それは倫理や人権に大きく関わるとして、時代、宗教、人権団体、同業者から誤解され、糾弾の対象となっていく。

 ヒースが行う治療は頭蓋骨に穴を開け、電気の針などを刺し、脳に直接電気を流す。思考は電気信号であり、その回線に問題がある場合、そこを治療するのは当然の処置である。だが、当時の人々には刺激的で衝撃的すぎた。例え治療といえど、人間には触れてはいけない部分がある、マインドコントロールを可能にする危険な治療だ、などなど。世間はヒースを危険視し、闇に葬り去ろうとする。

 脳深部刺激療法を受けた患者のほとんどは、ありとあらゆる治療をやり尽くし、医師でさえ匙を投げた人々だった。みんながみんなではないが、多くは藁にもすがる思いでヒースの元を訪ねたのだった。本編に登場する患者はヒースに好意的で、穏やかに生活していた。

 ヒースの治療に反対した人々は自分や身内が治療を受けるわけではないのに過剰な怯えを感じていた。「詳しいことは分からないが危険だと私が判断したから」攻撃する。知識はおろか、手術のおかげで人生を取り戻した、これから救われるであろう患者、ヒースの努力も知ろうとしない人々。彼らの声はその大きさゆえに、正義となる。誰も彼も人のためだと口にしながら、自分のことしか考えていないのは明白だった。

 個人的にどんな治療法であれ、数は多ければ多い方が良いと思う。人間みな違うように治療法も違うのは当然だ。皮肉なことにかつて弾圧された、「脳深部刺激療法」は主流になりつつある。そしてヒースの名を知る人はほとんどいない。

 本編に関係ないけれど、自分はこの本を途中までしか読んでいない。翻訳された文章はどうにも読みづらくて、遅々として進まん。

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる

著者:ローン フランク 

訳:赤根洋子 

解説:仲野徹 

発行:2020

本体価格:2000円+税

落とし屋・麒麟

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 このゲームの主人公は顔も台詞もない、いわゆる無個性主人公なのだが、自分との乖離が大きく戸惑った。理由は明かされていないが、主人公は人を呪いたくて仕方ないらしい。対してプレイヤーの私は触らぬ神に祟りなし精神なので、どうしても途中で呪いを諦めてしまう。

 ストーリー上、何が何でも人を呪う選択をしないと、本編にたどり着けない。最終的に私が折れ、呪うことに決めたが、結果として主人公自身が呪いにかかってしまった。

 言わんこっちゃない。

 呪いを解くことができるという落とし屋・麒麟は飄々とした成人男性だった。彼の実家は寺らしいのだが、仏教の開祖ブッダは他者へ危害を禁止している。それなのに何故、呪いに関わる職についているのだろう?兄が寺を継いでいると言っていたので、兄はご祈祷など表面を、弟は呪いなどの裏を背負う宿命を定められた家系なのか?謎が多いので妄想が広がる。

 一つ確かなのは主人公も麒麟はろくな死に方をしないだろうなあということ。恨みつらみは中毒性のある毒で、麻薬並みに心身を駄目にすると私は思います。