嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる(2020)

 忘れ去られた天才科学者、ロバート・ヒースは脳を電気で刺激する「脳深部刺激療法」で精神病などの治療を行っていた。しかし、それは倫理や人権に大きく関わるとして、時代、宗教、人権団体、同業者から誤解され、糾弾の対象となっていく。

 ヒースが行う治療は頭蓋骨に穴を開け、電気の針などを刺し、脳に直接電気を流す。思考は電気信号であり、その回線に問題がある場合、そこを治療するのは当然の処置である。だが、当時の人々には刺激的で衝撃的すぎた。例え治療といえど、人間には触れてはいけない部分がある、マインドコントロールを可能にする危険な治療だ、などなど。世間はヒースを危険視し、闇に葬り去ろうとする。

 脳深部刺激療法を受けた患者のほとんどは、ありとあらゆる治療をやり尽くし、医師でさえ匙を投げた人々だった。みんながみんなではないが、多くは藁にもすがる思いでヒースの元を訪ねたのだった。本編に登場する患者はヒースに好意的で、穏やかに生活していた。

 ヒースの治療に反対した人々は自分や身内が治療を受けるわけではないのに過剰な怯えを感じていた。「詳しいことは分からないが危険だと私が判断したから」攻撃する。知識はおろか、手術のおかげで人生を取り戻した、これから救われるであろう患者、ヒースの努力も知ろうとしない人々。彼らの声はその大きさゆえに、正義となる。誰も彼も人のためだと口にしながら、自分のことしか考えていないのは明白だった。

 個人的にどんな治療法であれ、数は多ければ多い方が良いと思う。人間みな違うように治療法も違うのは当然だ。皮肉なことにかつて弾圧された、「脳深部刺激療法」は主流になりつつある。そしてヒースの名を知る人はほとんどいない。

 本編に関係ないけれど、自分はこの本を途中までしか読んでいない。翻訳された文章はどうにも読みづらくて、遅々として進まん。

闇の脳科学 「完全な人間」をつくる

著者:ローン フランク 

訳:赤根洋子 

解説:仲野徹 

発行:2020

本体価格:2000円+税