嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

しずく(2010)

 どれだけの人が共感してくれるか分からないが、私は西加奈子が怖い。

 彼女自体はあっけらかんとして、とにかく明るい西と呼びたくなるほど、太陽のごとく底抜けに明るい人物だ。文章も同様、軽快で読みやすく明るい。普通どんなに明るい人間でも影の部分はある。しかし西加奈子にはそれがない。陰影がない。

 西加奈子は怖い。

 この本には六つの短編が収録されている。どれも人間の愚かさや馬鹿馬鹿しさを書きながらも悲惨さがない。どんな自己中心的な人物でも不快感がない。

 西加奈子の著者「きりこについて」では登場人物のほとんどが不幸な経験をしていた。しかし西加奈子の文章は彼らを輝かせるばかりで影を作らない。どんなに悲惨な、きりこで言うなれば魂の殺人と呼ばれる強姦でさえ、あっけらかんと書く。

 その事実に気づいた時、私は西加奈子に恐怖心を抱いた。どんなことでも明るく書いてしまう、西加奈子。底のなしの明るさ。生ける太陽。

 その反面、彼女がどうしようもなく不幸な物語、例えば戦争を描いたらどうなるか興味が湧く。好奇心の中に少しばかりの加虐心があるのは否定できない。