嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

新版アイヌ物語世界

 メモ

人間が狩をして動物を殺し肉を手に入れるのは、人間として当然の営為であり、罪の意識を感じる必要も、カムイたちから仕返しを受けるいわれもない。しかし、無意味な殺戮は堅くいましめられるべきことである。それは、動物の命など自分の手で奪ったことがないと信じ込んでいる現代のわれわれ以上に、狩猟民族であった彼らが厳格に守っていることであった。むやみに動物を殺したり草木を切ったりすることは、もっともおそれるべきことである。「飢え」を招くことにつながる。彼らにとって、無意味な殺戮は自分たちの生命を危機に直接つながることとして受け取られていたのである。

引用:新版アイヌ物語世界 p38

このトゥパットゥミ、「集団盗賊」とか「野盗」とか訳されるが、それが歴史上実際にあったかことなのかどうかはよくわからない。しかし、散文説話の中には頻繁に登場し、先に述べたウパシ(シは本書では小文字)クマにもさまざまに伝えられる。それは「集団盗賊」という邦訳では、ちょっと理解しきれないものである。まずそれは村ぐるみでやってくる。つまり、社会のルールから外れた悪漢の一味ではなくて、ある集落が全員一体となって別の集落を襲うというしろものである。

引用:新版アイヌ物語世界 p97

 トゥパットゥミは様々な地域の伝承を整理するとほとんどが東から西へ移動している。奪うのは宝石の類、多くは本州や大陸から交易で得られた漆塗りの容器、飾り太刀など。物語の中では必ず赤ん坊にいたるまで村人を皆殺しにし去っていく。皆殺しにするのは復讐を恐れてのことである。

新版アイヌ物語世界

発行:2020

著者:中村裕

本体価格:1400円+税