嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

アフリカの民話〜ティンガティンガ・アートの故郷、タンザニアを中心に〜(2012)

 アフリカ在住の著者が現地の人々に聞いた民話を集めた本。

 登場する動物の豊富さ、妙に生々しい生死感、当たり前のように現れる呪術師、生活に根付いたイスラム教、アラブ文化など、文化や考え方の違いが楽しい。

 以下、気になった民話をいくつか。

・猿女房

 飢えた猿達が食料を得るため、仲間のメス猿を人間に変身させ、大金持ちに嫁がせる話。

 生きるためとはいえ猿達のメス猿への対応はかなり残酷だ。人間に変身させるため尻尾を取る、メス猿を大金持ちに嫁がせ食料を手に入れるも催促し続け、人間に散々な目に合わされる。猿達の怒りはメス猿へ向かい、尻尾をくっつけ、猿に戻した挙げ句、餓死させる。

 この話が作られたタンザニアでは猿は作物を荒らす害獣でメス猿の最期は仕方ないとのこと。

・泥から生まれたどろんこ娘

 子宝に恵まれない母親が呪術師の力を借り、泥からできた娘を授かる話。子供は泥でできているので水は厳禁。しかし子供は雨に打たれ、体がバラバラになりなくなってしまう。

 10人ほどでようやく子沢山といわれる土地で子宝に恵まれない母親の肩身の狭さなどが元に作られた物語。とみせかけて、締めくくりは子供は天からの授かりものであり、子がいてもいなくても感謝するべきであると締めくくられている。

・わがままシモンジャ

 親の言うことを聞かない娘が言いつけを破り、人食い妖怪ジムィに食べられる話。ジムィがシモンジャを池に引き込むシーンは日本ならコンプラ団体がすっ飛んで来そうなほどリアルで恐怖を煽られる。

・水を盗んだウサギ

 動物村で行われた井戸掘りに参加しなかったウサギが井戸水を盗む話。水を取られまいと様々な動物が井戸を守るがウサギにかなわない。最後に名乗りを上げたのは亀。しかし亀もウサギにしてやられてしまう。

 ウサギと亀の昔話は日本にも存在する。ウサギがずる賢いのは日本もアフリカも共通らしい。違うのはウサギの連戦連勝で終わっている点。特に罰が当たるわけでもない。水が貴重な土地なのにこれでいいのかと疑問が残る。勝てば官軍?

・もの食わぬ女房

 大金持ちでケチなアラブ男がめとったのは少量の砂糖しか食べない女だった。

 日本の「食わず女房」は頭に口のある化け物だったがこちらはただの大食い女。夫のアラブ男は女の大食いに気づき、追い出した時には後の祭り。溜め込んでいた食料、女が食料を買うため前借りした店の莫大な請求により貧乏になり、笑いものになる。

 似たような話に「屁こき女房」がある。こちらは女の屁が許せない男の話で最終的に妻を殺してしまうが罰は当たらないし、罪にも問われない。

・ヤシの木に登った11人の息子

 大金持ちの娘と結婚するための条件は高いヤシの木を登り、実を取ってくること。日本にあるかぐや姫に似た話。こちらは無事、娘と息子は結婚する。

・うそつきしゃれこうべ

 嘘つきの友人に騙され、1人の男が死んでしまう話。曰く「嘘つきを信じて騙されるが悪い」のだそう。そんな!

・死の刻印

 額に「結婚する日に死ぬ」と書かれた赤ん坊の話。

 ザンジバルでは人は「死ぬ日が来たから死んだ」と捉えるらしく、死因や最期などは深く話さないという。

そんなふうだから、人身事故などの、どう考えても理不尽な状況の中で不慮の死を遂げたように見える場合、日本人なら相手の責任を追求したり、事を起こした相手を恨んだりすると思うのですが、こちらでは、そういった場合の遺族は、死因や責任の追求に対してあっさりしているように感じます。

引用:アフリカの民話〜ティンガティンガ・アートの故郷、タンザニアを中心に〜 p205

 発展国だからこそ、死に寛容にならざる得なかったのだろうか?