嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

ある日わが子がモンスターになっていた 西鉄バスジャック犯の深層(2014)

 本書は2000年に起きた当時17歳の少年によるバスジャック事件の事件前後、その後を記録したノンフィクションである。

 読みながら、読み終えた後も怖い、悲惨だ、そんな当たり前の感情より先に難しいが湧いてきた。過干渉の母、人生の不満を孫にぶつける祖母、いじめにあった学生時代。母からは「いい子」、祖母からは「跡取り」という呪いをかけられた少年はいつの間にか高すぎる理想を掲げるようになった。現実ではいじめ、不登校を経て、いわゆる「落ちこぼれ」となっていく。

 他者から植え付けられた過剰なプライドから現実を受け入れられず、不満は家族、社会へ向けられる。得体のしれないモンスターへと変貌していく子供に惑い、振り回され、心身共に疲労した両親は周囲に助けを求める。よくできた映画かと疑うほど、周囲との掛け違いやミスが起こり、少年はバスジャックを起こす。

 難しいと感じたのは事件を回避するチャンスが何度もあったことだ。母親が理想の「いい子」に執着しなければ、祖母が孫にストレスをぶつけていなければ、父親が息子を厄介者ではなく、本気でぶつかっていれば、学生時代のいじめが解決できていれば、保護入院時の担当医師が判断を間違えなければ…。

 第三者、事件の全貌を知る私はいくらでも無責任に「たら」「れば」が浮かんでは消える。少年を含む、周囲の人間、誰も彼もが自己中心的であるという批判も。

 少年の書いたメモが末端に収録されている。完全に壊れた少年の精神も思考も何ともお粗末で、馬鹿馬鹿しくてしょうがなかった。薄っぺらい全能感に浸っている少年は裸の王様で不謹慎ながら笑ってしまった。

 しかし私が少年の家族なら、周囲の人間なら彼を救えたかどうか分からない。周囲に助けを求めても断られ、精神が限界を迎えたら、我が子であっても手をかけてしまうかもしれない。終始難しいと頭を抱える本だった。