嗚呼、刀葉林

読んだ本とフリゲについて、書いたり書いてなかったり。

揺れる移民大国フランス 難民政策を欧州の未来(2016)

 フランスの知識がベルサイユのばらで止まっている自分にとって衝撃的な内容であった。まず驚いたのはフランスが移民難民の受け入れの多さから「世界の隠れ家」と呼ばれている事実である。次に驚いたのは「フランス人、3代前はみな移民」の精神からくる移民難民に対する理解の高さだ。

 当事者意識と理解があるがゆえ、税金を投じ、衣食住の補償はもちろん、パリ市に暮らす子供達は全寮制の施設が提供され、さらに毎月のおこずかいも支給される。スマートフォンも所有している。これだけ手厚い支援を受けられるのだからフランスが「世界の隠れ家」になるのも納得だ。

 もちろん差別、貧困、宗教間の摩擦など、悩みの種は尽きないが、本書を読む限り、問題解決のため行動する人々が多いように感じた。まあ著者がそういう人ばかりをインタビューしたとも言えるが。ともかく、国民のほとんどが批判は問題解決にならない、むしろ自分達を苦しめる結果になると思っているのは確かである。翻って日本は、自分はどうだろう?

 歴史的背景、地理など日本とフランスを比べるのは困難だ。しかし日本は人口が減り続けており、対策の1つとして移民難民の受け入れがある。正直日本が受け入れを開始するとは到底思えないが、仮に受け入れが始めればどうすればいいのか。どんな影響があるのか。フランスも最初から「世界の隠れ家」ではなかったはずだ。その過程を調べれば何かを得られるかもしれない。

 最後に心に残った言葉をいくつか。

 とあるフランス人裁判官の言葉。

「不法移民の子どもを保護して、フランス社会で暮らしていけるように育てたとしても、同化できる子は六割、後足で砂をかける子が四割いる。しかし、たとえ四割の子に裏切られたとしても、それでも目の前にいる子を助ける。それがフランスという国だ」

引用:揺れる移民大国フランス 難民政策を欧州の未来

 アフガニスタンからフランスへ亡命した青年が母国への日本の支援を感謝した後に語った言葉。

「今、私たちのような外国人が日本に受け入れてもらえる機会はありません。移民が来ること自体、日本にとっては大問題なのでしょうね。それでも、日本人は本当に親切で、他人を受け入れてくれる民族だと聞いています。もう少しだけでも受け入れてくれるようになれば、多少かもしれませんが日本の経済にも貢献できるようになるのではないかと考えています。アフガニスタンと日本がより近い関係になれるように祈っています」

引用:揺れる移民大国フランス 難民政策を欧州の未来

 多くの移民難民を受け入れているハンガリーに暮らす女性の言葉。

「不法難民・移民を取り締まる法律ができましたが、ちゃんと難民登録の手続きをしてくれるのであれば、問題ありません。問題なのは、自分の身分を隠すために、パスポートも身分証明証も何も持たず、『私はシリア難民だ』と言って入国してきて、登録手続きもせずにオーストラリア、ドイツに向かおうとする人たちがいることです。

 勝手に大勢でなだれ込んできて、ルールに従おうとせず、国境までの道のりの途中で、所かまわず用を足し、丹精こめて作ってきた農作物を荒らして去っていく。二〇年以上かけてようやく育てあげたブドウ園を滅茶苦茶にされてしまった農家の方たちの落胆ぶりを見たら、どう思いますか?それでも『難民のみなさん、ようこそ』という気持ちになれますか?私たち国民だって、自分たちの生活を守っていかなければならないんです」

引用:揺れる移民大国フランス 難民政策を欧州の未来